施工管理は以前から慢性的な人手不足に悩まされていました。果たしてそれは施工管理が人気のない職業だからなのでしょうか。
本記事では、施工管理が人手不足になった5つの理由と、人手不足を受けて国が推進した働き方改革の内容などを分かりやすく解説します。
今後、施工管理の仕事がどう変化していくのかを詳しく見ていきましょう。
施工管理が人材不足になった理由
2020年に公開された建設業の就業者数の推移は次の通りです。
青線の建設投資額(事業規模)に対し、白い丸がついた赤線(就業者数)は横ばいに推移していることが分かります。建設投資額とのつり合いが取れていないことから、施工管理を含む建設業全体の人材が不足していると言えるでしょう。
施工管理が人手不足になっている理由は下記の通りです。
- 新卒離れ
- 残業時間が多い
- 給与が低いと感じる
- 肉体労働離れ
- 責任が重い
以下では、それぞれの理由について解説します。
新卒離れ
施工管理が人手不足となった理由として一番に挙げられるのが新卒(若者)離れです。
緑の線(全産業の平均)を見ると、29歳以下と55歳以上の就業人口に14.9%の差があります。一方の赤線(建設業の平均)を見ると、29歳以下と55歳以上の就業人口に23.7%もの差があります。
つまり、全産業で高齢化が進んでいる中、建設業ではその傾向が顕著に表れており、若者離れが深刻化していると言えます。
残業時間が多い
施工管理は、残業時間の多さが人手不足の原因となっている可能性も高いです。
緑の線(全産業の平均)が年間労働時間1,734時間であるのに対し、赤線(建設業)の年間労働時間は2,048時間と、314時間もの差があります。
しかし、建設業でも国が働き方改革を推進したことで、2017年から労働時間が減少傾向にあります。建設業全体の事業規模が急激に大きくなっていることを鑑みると、労働時間はかなり減少していると言えるでしょう。
国が推進した残業時間に関する方針については後述します。
給与が低いと感じる
全国の平均年収が307万円であるのに対して、施工管理の平均年収は451万円であるため、全国平均よりも146万円高いです。
しかし前述した通り、施工管理は他の業界に比べて残業時間が多い傾向にあるため「仕事と給料が見合っていない」と感じる人が多いのかもしれません。とくに未経験から施工管理としてのキャリアをスタートした場合は、現場での手伝いがメインになる傾向があるため、給与が低いと感じることもあるでしょう。
とはいえ、施工管理は資格を取得し、実務経験を積むことで年収を上げられるため、自身の努力次第では全国平均の2倍近い年収を得ることも可能です。
【参考】一般労働者の賃金-厚生労働省、平均年収ランキング-doda
肉体労働離れ
先ほどの新卒離れと同様に、肉体労働を避ける若者も増えています。とくにデジタルネイティブ世代と言われる層はIT業界を志す人が多く、肉体労働のイメージが強い建設業界を避けている傾向があります。
施工管理の主な仕事は、現場のスケジュール管理や作業員への指示出しですが、現場の肉体労働を手伝うこともあるでしょう。肉体労働がメインではないものの「現場での作業を避けたい」と思う人が多いのだと考えられます。
責任が重い
施工管理は、作業員や職人などをまとめ、工期内に工事を完成させなければなりません。工事には数千万円のコストが投下されるため、プレッシャーも大きなものとなります。
そういった責任の重さに耐えられず、他業界に転職する人も多いでしょう。
しかし、責任のある仕事をやり遂げた際の達成感は、他の仕事で味わうことができません。また、公共の建造物やインフラなどの工事は多くの人に喜ばれるため、強いやりがいを感じられます。
【施工管理】人材不足を受けて国が行った4つの改革
施工管理の人材不足を受けて国は、下記4つの働き方改革を導入しました。
- 週休二日制の推進
- 残業時間の緩和
- 給与アップ施策
- 生産性の向上
それぞれの改革により、施工管理の労働環境がどのように変化しているのかを紹介します。
1.週休二日制の推進
国は、週休二日制を推進したことにより、公共工事における週休二日工事の件数が大幅に増加しました。
また、週休二日制の導入に必要となる経費を的確に把握するために、労務費、共通仮設費、現場管理費などの補正率が行われています。これにより、企業は無理なく週休二日制を導入できるようになるため、施工管理の負担がより少なくなるでしょう。
2.残業時間の緩和
働き方改革関連法の実施により、2024年4月1日以降、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されることになりました。
そのため、企業は特別な事情があり、特別な取り決めをしない限り、施工管理の時間外労働を月45時間、年360時間以内に収めなければなりません。
ただし、災害の復旧や復興を目的とする工事は上限規制の対象外となっているため注意が必要です。
3.給与アップ施策
施工管理として働いている人の経験や技能に見合った給与が得られるよう、国は建設技能者の能力評価制度を策定しました。これにより、しっかりと経験を積んできた施工管理技士などに対して適切な給与が支払われやすくなるため、所得面での不安・不満が解決されます。
また、建設業で働く一人ひとりの能力が見える化されるため、就職や転職の際に起きるミスマッチを防ぐことにもつながるでしょう。
4.生産性の向上
建設業の生産性を向上させるためにICT(情報通信技術)の導入も進められています。
これにより、現場での作業はもちろん、施工管理にとって大変な事務作業の工数が大幅に削減することが見込まれます。建設現場全体でICTが進めば、施工管理が行うすべての仕事に良い影響をもたらすため、より働きやすい職場環境になるでしょう。
施工管理技士の需要は今後どうなる?
施工管理技士の需要は今後さらに高まっていくことが予想されます。高度経済成長期に建造された建物の耐用年数に限界がくるためです。
また、地方都市や都市部の再開発も今後さらに増えていきます。それに伴い、インフラやライフラインの整備、新設工事なども増えるため、施工管理の需要は益々高まっていくでしょう。
上図からも分かる通り、建設投資額(青線)は右肩上がりに増加しています。施工管理の需要も建設投資額に比例し、右肩上がりになることが予測できるでしょう。
施工管理技士の課題
施工管理技士の課題は、高齢化と若者離れが進んでいることです。
現状を見かねた国が、施工管理技士の資格の試験内容を見直したり、労働環境の改善を進めたりしていますが、まだまだ改善途中です。
とはいえ、国の働きかけによって着実に課題解決へと向かっています。今後も国の働き方改革が順調に進めば、若者の定着率が上がり、施工管理が人気の高い職業になっていくでしょう。
まとめ
本記事では「施工管理が人手不足になった原因」「今後、施工管理の職場環境がどう変化していくか」などを紹介しました。
これまでの施工管理ら労働環境はあまり良くなかったため、若者が定着せず慢性的な人材不足に陥っていました。
しかし近年では、国が働き方改革を推進したことにより、労働環境は大幅に改善されています。よって今後は、施工管理にも人が集まり、より人気の高い職業になっていくでしょう。
百田 遼太郎